松戸の生活情報サイト::Helloまつど.com

友人ドロシーさんはユダヤ人女性で、三十年来の知り合いだ。さすがと言うほど、いろいろのことを知っていて、知恵を授けてくれる。
エジプトに生まれ、英国で教育を受け、英語もフランス語もドイツ語もペルシャ語も分かる。イランで知り合った米国海軍の男性と結婚して米国民になった。
旦那が亡くなって、今はネバダ州側のタホー北部湖畔にあるコンドミニアムで生活している。一人息子は、車で一時間ほど離れたリノで不動産業をやっている。彼は五、六年前に、ともこさんと言う日系の女性と結婚した。
彼女は一女の子連れだったが、最近二人の間に男の子が生まれたので、おばあちゃんになったドロシーさんは、孫に目がない。
この息子家族は週末になると、ドロシーさんを訪ねてリノからやってくる。ドロシーさんは、泊めてあげるからいつでもいらっしゃいとさそってくれるが、シリコンバレイからの距離が二百五十マイル（四百キロ）もあるので、車で六時間かかる。そう簡単には行けない。
タホー湖は一周が百キロくらいで、西側がカリフォルニア州、東側が隣のネバダ州になっている。関東の芦ノ湖のように山道を登らないと到達できない高地にある。
南部湖畔は、早くから観光開発が進み世俗化しているが、北部湖畔は高級保養地として保護されている。
北米大陸の米国太平洋側と大西洋側は、南周りと北周りの鉄道で結ばれている。米国の鉄道は経営が悪化し統合されて全国網はアムトラックとなった。北周り線では、シリコンバレイのサンホセからシカゴまで、アムトラックの豪華特急が走る。途中のトラッキー駅がタホー湖には近い。タホー湖へ行くには、空路、鉄道、高速道路が使える。
タホー湖一帯は雪が積もるので、鉄道も高速道路も、冬季には不通になったり渋滞したりする。二年程前四月末にドロシーさんを訪ねようと、アムトラックのサンタクララ駅からリノ行き列車に乗った。
ところが雪のため列車は不通となり、はるか手前のサクラメントでバス便に切り替えになった。ドロシーさんは自宅から三十マイル離れたトラッキー駅まで車で迎えに来てくれた。
今回はすでに六月末なので、州間高速道路（インターステイト）八十号線と分岐する二七六号線沿いに車を運転して無事ドロシーさん宅に到着した。道路は上下分離片側二車線で整備されていたものの、トラッキーの手前四十マイルのコルファックスあたりから急坂続きで往生した。おりしも、米国西部は猛暑で、タホー湖地域も暑かった。

ちょうど土曜日の午後、地元インクライン村の会員専用の浜辺に息子家族が来ていると言うので、ドロシーさんを車に乗せて向かった。
ドロシーさんは浜辺に大勢いる中から、息子のパラソルの色を目ざとく見つけた。息子のマックスさんは同僚家族と一緒にいた。浜辺でネバダの地ビールで喉をうるおす。
太陽もそろそろ落ち始めると、いつのまにか湖面の沖には多数のボートが夕涼みに出てきた。
私たちは近くのハイアットホテルに移動し、しばらくして、庭に席が空いたので合計九人が移動する。食べ物はパスタとピザと飲み物だったが、子供たちはパスタがお好みのようだ。
ドロシーさんによれば、孫たちはモンティソーリのような「自覚と思考を促進する特定教育の学校」に通っていると言う。
自宅の近くにあるわけではないので、金と時間がかかるが、子供たちの将来に期待している。ドロシーさんは、私たちは「神に選ばれた民族だ」と言うので、「私も東京からタホーまで来たんだから、選ばれたうちに入るかね」と笑いながら言い返した。
ドロシーさんには色々のアレルギー反応がある。甲殻類はだめ、あれもだめ、これもだめ、息子はドロシーさんの家に立ち寄り、飲み薬の分類箱に入れた薬を、ちゃんと飲んでいるか確認している。
「おー、だいぶ飲み忘れたね。写りが悪い衛星テレビは、今度交換するからね。掃除をする女中を怒鳴り付けたりしたらだめだよ、僕が部分的にでもお金を払っているんだからね」
神に選ばれた民族は、何かと気にすることが多く忙しい。