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特集記事

Vol.210 -- 2017 年 10 月号

徳川文武の「太平洋から見える日本」
徳川文武

第一〇一回 北朝鮮があばれ出すと日本はどうなる
 九月十五日朝、北朝鮮の中距離弾道ミサイルが襟裳岬沖二千キロ東方の太平洋に落ちた。北朝鮮の軍事力、資源入手、支援連携などは、太平洋戦争時に日本が置かれた状態と比較すると、はるかに有利に見える。太平洋戦争中(真珠湾攻撃以後)の日本の軍事力は、レーダーなど通信機能を除けば、多くの性能で優れていたと思う。しかし、日本から南方戦線までの距離は三千キロ以上もあり、途中の海上で戦力の多くが撃沈された。軍事資源入手も、日本は多くの材料と原油のすべてを欧米諸国から輸入したため、連合国の禁輸で首を絞められた。北朝鮮は鉱物資源も日本より豊かで、必要な物資は中国とロシアから制裁を回避して入手できる。そればかりか、ミサイルや潜水艦などもロシアや旧共産諸国から買える。北朝鮮は世界百八十国と外交関係があり、北朝鮮労働者は低賃金の出稼ぎで働き、軍事力増強に必要な外貨を稼ぐ。戦時中の日本は、中国や朝鮮から安い賃金で働く労働者を国内の軍需産業で働かせたが、北朝鮮のやり方は上手だ。日本の場合は、戦争が長引くほど物資輸入の金が不足して日本の財力は落ち、国民生活が苦しくなったが、北朝鮮の場合、都市部の国民生活の改善が顕著だ。

北朝鮮の意図は統一か
一九一〇年日本は、日韓併合条約により大韓帝国を植民地化し朝鮮と改称した。太平洋戦争下で日本が敗北に近い一九四三年、米英中国は、カイロ会議で朝鮮の独立を約束し、終戦と共に北緯三十八度線北半分をソ連、南半分を米国の占領下におかれた。当初は米ソが南北の統一方法を協議したが、米ソ対立の激化で協議は決裂した。一九四八年南部に大韓民国、北部に朝鮮人民共和国(北朝鮮)の独立が宣言された。一九五〇年北朝鮮軍は南北統一を目指し三十八度線を越え南部に侵攻した。国連安保理は北朝鮮軍を侵略と認め米軍中心の国連軍が韓国を支援して中国国境近くまで北朝鮮軍を追撃した。中国は人民解放軍を北朝鮮側に派遣した。一九五三年に休戦協定が成立したが、南北朝鮮はいまだ平和協定を結ばず、米国の韓国駐留が続いている。
第二次大戦の終結は、多くの国の復帰と国境改訂を生じた。その中でも、東西に分割されたドイツでは、ソ連邦の崩壊により一九八九年にベルリンの壁が取壊され、統一が復帰した。南北朝鮮の場合、北朝鮮ではソ連の政治基盤である社会主義が世襲独裁主義と結びつき、南の韓国は大統領制民主主義と政治理念が異なる。血縁関係の強い朝鮮社会で国土が分断されたので、南北朝鮮の統一を望むのはごく自然なことだ。一時は核兵器の軍縮まで歩み寄った「米ソ陣営」は、「政治理念の対立」から「経済的利害の対立」に変わった。

トランプ大統領率いる米国
権力があっても経験不足のトランプ大統領は、米国を取仕切る能力が不足する。かれは「恵まれない白人労働者層」の支持で大統領になったが、行っている政治は「米国資産家」の利益を追求している。かつて米国は国連で世界の指導者を演じたが、トランプ大統領は米国の利益をトランプ劇場で演じる。
北朝鮮は、道具として「核弾頭を装備した弾道ミサイル」、「サイバー攻撃」や「生物兵器」、「潜水艦ミサイル」を持合わせており、国際社会の制裁で道具の使用を自粛するとは思えない。核兵器を持つ国連理事国、この既得権益が国際平和の決定権であることもおかしい。北朝鮮は現在米国本土を攻撃できなくとも、グアム島や日本にある米国基地に危害を及ぼすことは出来る。米国が斬首作戦や先制攻撃に出れば、北朝鮮は必ず応戦するだろう。米国による斬首は、イラクにもアフガニスタンにも平和を実現しなかった。

欧米と違う日本の防衛環境
安倍総理は外遊先で「北朝鮮に対する制裁」への同意の提唱に忙しいが、これは日本にとって非常に危険だ。攻撃力や防御力が劣る日本が「北朝鮮を煽動」すれば、北朝鮮が「日本を攻撃する」ことは朝飯前である。その理由は、第一に日本が北朝鮮から至近距離にあること、第二に日本には北朝鮮の攻撃対象、発電所のなかでも原発、化学工場、鉄道、飛行場など多いこと、第三にサリンのような「化学兵器」を仕掛ける(コンビニなど)のも容易だ。安倍総理が米国の傘の下で「断固許すことは出来ません」と豪語するのは自殺行為だ。彼には自分が逃げ込む避難所があるが、一般の国民にはない。分断された二つの朝鮮の統一を支援する方が賢明だ。高価な武器を米国からどんどん買っても、役に立つとも思えない。



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